モノはイメージで売れ


30年も前のことであるが、ある日、スピーカメーカの社長が訪ねてきた。

社名が陰気くさく、スピーカの形もへんてこで売れないのですが、ご意見をお聞かせくださいということだった。

そこで、その会社の雑誌広告を指して「プロ向けの商品もコンシューマ向けも一緒に広告を作っているでしょう。それでは駄目です。プロ商品はプロ雑誌へ、コンジューマ商品は一般雑誌に分けなさい」と申し上げると、社長は即座に広告代理店に電話をしていた。

社名が陰気くさいなどと言っていないで、自分たちで良いイメージを作ればいいのです。

それから数日後、社長は高音域(ツイター)のスピーカの角度がくるくる可変できるスピーカシステムを持ってやってきた。米国製だから雑な作りだった。それに米国人の好きな木目である。

そこで "日本人は木目を好まないから黒く塗ってプロの音響調整卓を背景に写真を撮って宣伝すればよい" と提案した。

これが功を奏し、瞬く間に2ロットを売り尽くした。

このころから、この会社の商品に付いているロゴが展示会で盗まれるようになった。会社のイメージが上向きになった証拠である。

展示商品の横に取り外したロゴをごろごろ置いといたらいいと進言した。これで社名が街にはびこれば、とても安価な広告である。

著名なミュージシャンには商品を提供させた。そのかわり観客席から見える位置、またはテレビに映る位置に大きなロゴを付けさせた。これも安価な広告である。

コンシューマの高級商品は、著名なジャズミュージシャンで広告を作っていた。これは日本の音響機器市場の定番だが、ここで能楽の太鼓の演奏者を起用する奇抜なアイディアを申し出た。これですごく売れて囃子方への報酬も格段となった。

社長は、何かを提案するとすぐにメモをとったり、運転中は小型録音機に録音したりして、すぐに実行に移していた。失敗も数々あったようだが、多くのヒット商品を世に出して、日本のオーディオ界を牽引した。

 

大切なことは、アドバイザーの提案を実行するか、無視するかの違いである。