劇場スタッフの仕事術

 

劇場や音楽堂は、民営であれ公営であれ、観客に来ていただいて芸能(エンターテインメント=娯楽)をお見せし、楽しんでもらうところです。

つまり、客商売です。

そこで働くスタッフたちは、芸術家、創造家、それとも労働者?

 

そのすべての要素を持っていると思います。

しかし、専門家の目線で考えていたのでは、社会から認められるモノを創造できないとも言われています。一般社会人(消費者/観客)の目線で観察することが重要です。

たとえば電気炊飯器を設計するとき、お焦げを好きな国民のためには美味しそうに焦げるように設計します。インドの人たちの好むクーラは、作動音が大きいもののようですから、日本のように静けさを売りにした製品はインドでは売れません。

 

最近では、女性の目線で開発した商品が売れると言われています。家電などは、女性を開発担当者にすると、その商品を消費者目線で考えるからです。

したがって、女性の劇場支配人やスタッフが大活躍しているのにうなずけます。

 

公共劇場のスタッフは「上から目線」に陥りやすく、利用者や出演者、外来スタッフの気持ちを察することができず、その人たちに嫌われているのを見受けます。

これは現実に某地方の公共ホールの舞台管理者がやっている応対ですが、シニアのカラオケ大会の打ち合わせに来た老人会代表に、「仕込み図と進行表を持って来い」というのですから呆れてしまいます。このような応対をすることは、自分の立ち位置を知らない素人のスタッフということです。

地域住民の利用者たちは、劇場には「私たちの夢を叶えてくれるプロのスタッフがいるのだ」と頼りにしています。

しかし理不尽な要求をする利用者が多いのも事実です。国会議員や市会議員の虎の威を借りて、自分だけの特別扱いを無理強いしてくる困った利用者もいます。

公共ホールは地域住民 みんなのモノ自分のモノ と履き違えている地域住民がいます。

「みんなのモノ」=「一個人のモノ」ではないのですから、みんなで公平に利用しなければなりません。そのために規則があるということを理解してもらわなければ困ります。

この説明をするときも、劇場スタッフは上から目線のものの言いかたでは不満を買います。上手に説得できるからこそ客商売のプロといえるでしょう。単に、「規則ですから」は反感を買います。

 

昔、NHKの名物ディレクター和田勉さんが次のようなことを言っていました。

『私の作ったドラマにクレームを付けてきた視聴者がいまして、聴視料を返せと言うので、「貴方の分は10円ですからで、支払いますので取りにきてください」と言ったら電話が切れた』と自慢していました。

 

公共劇場で、利用者と最も多く接するのは舞台の技術者であって、その人たちの評判が、その劇場の評判となります。

つまり、舞台スタッフは劇場の顔です。

そして、主催者(利用者)や出演者たちは、劇場の業務に携わっているすべての人を、社員・職員・委託・派遣・アルバイト・ボランティアの区別なく、同一身分の劇場従業員とみなしています。

 

もし、区別してほしいのなら、作業着の背中に派遣とか委託とか大きく書いておくべきではないでしょうか。